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都市づくり政策

東京都景観審議会【答申】〜東京における今後の景観施策のあり方について〜


第2章 これまでの景観行政の取組と課題

 都は、平成9年12月に「東京都景観条例注4(以下「景観条例」という。)」を策定し、主に

  • 届出制度による景観づくり
  • 公共事業による景観づくり
  • 歴史的建造物の選定と歴史的景観の保全

 の3つの取組を行ってきました。今後の景観施策の方向性については、これまでの取組による課題を明らかにし、また、近年の社会経済情勢の変化等を踏まえ、検討していく必要があります。

1 景観条例に基づく取組と課題

(1)届出制度による景観づくり

 都は、先に示した11の景観基本軸のうち、6か所について、「具体的な区域」や「景観づくり基準」を順次定めてきました。これらの区域において、一定規模以上の建築行為等を対象に計画段階で届出を義務づけ、その地域にふさわしい景観誘導を図っています。
 また、景観基本軸以外の地域についても「一般地域」として別途「景観づくり基準」を作成し、大規模な建築行為等に対して景観誘導を行っています。

【指定済の景観基本軸位置図】

イメージ図

 建築行為等の届出制度を通じて、丘陵地の緑や河川など自然景観への配慮を求め、景観誘導に一定の成果をあげてきました。しかし、都心部など市街地については、景観マスタープランで景観基本軸の設定の考え方が示されたものの、具体的な区域指定が行われませんでした。今後は、都心部などを対象に新しい開発計画などに合わせた景観づくりに積極的に取り組んでいく必要があります。
 また、届出制度は、事業者との協議を通じ、柔軟に景観誘導を行うことが可能ですが、景観への配慮基準が定性的・網羅的であり、協議の具体的な成果が見えにくいことが課題となっています。
 さらに、他の法令等注5に基づき許認可や届出が必要な開発行為等については、景観条例による届出を適用除外としています。これらの担当部署と景観条例の担当部署との調整の仕組みがないため、効果的な景観誘導が図れていない場合も見られます。


(2)公共事業による景観づくり

 都は、平成11年に都、国、区市町村及び公共的団体(公社等)が施行する公共事業を対象とした「公共事業の景観づくり指針注6」を策定しました。本指針は、公共事業の計画、設計、工事などの各段階において、景観上配慮すべき事項を示し、公共事業者に適合努力を促すことを目的としています。
 国や地方自治体が行う公共事業は、景観条例による届出を適用除外としており、また、指針に基づき公共事業者と景観担当者が調整する仕組みがルール化されていません。結果として、公共事業における景観への配慮は公共事業者の自主的な判断に委ねられてきました。
 また、公共事業に合わせ、地域の景観づくりを促す仕組みがないために、公共施設とその周辺地域が一体となった、統一感のある景観形成を計画的に進めていくことが困難となっています。


(3)歴史的建造物の選定と歴史的景観の保全

 東京都景観審議会の答申に基づき、都は、景観上重要と考えられる歴史的な建造物を選定し、その保存を図ってきました。これまで審議会は保存すべき歴史的建造物として185件を答申しています。そのうち74件の建造物については、所有者の同意が得られ、選定されています。
 都は、選定した歴史的建造物に対し、外観を保存するための工事費の助成制度など保存を支援する施策を行ってきました。しかし、都からの保存要請に対して、維持管理費の増大や増改築に対する制約等を理由に所有者の同意が得られず、審議会の答申リストに入ったものの、解体されてしまった歴史的建造物もあります。
 また、平成13年に都選定歴史的建造物や景観上重要な歴史的建造物等注7として指定している文化財庭園などの周辺100mの範囲内を対象とする「歴史的景観保全の指針注8」を定め、この範囲内において、建築行為等を予定している事業者に対して景観への配慮を要請しています。

【都選定歴史的建造物や景観上重要な歴史的建造物等の例】

写真
立教大学第1食堂(都選定歴史的建造物)
写真
池上本門寺五重塔
(景観上重要な歴史的建造物等)

【歴史的景観への配慮を要する範囲】

都選定歴史的建造物等   配慮を要する範囲

1都選定歴史的建造物等の壁面から100mの範囲内
2敷地の境界から100mの範囲内
(庭園、広い敷地内の建造物など)

 このような範囲を対象に、建築物の高さの最高限度が都市計画により定められるなど、この制度が区による景観保全施策の先導役となった例もあります。しかし、開発事業者に対する周知不足や、配慮すべき具体的内容が定められていないことから、制度に即して歴史的景観に配慮した街並みづくりが進んできたとは言えない状況です。

 これら3つの主要な施策は、東京の景観づくりに対して先導的な役割を担ってきました。それぞれの施策には一定の成果がみられるものの、施策の目的が必ずしも十分に達成されてきたとは言えません。今後は、配慮すべき基準の客観化や都市づくりに係る多様な主体・制度との連携など、施策の内容や進め方を再検討し、景観誘導の実効性を強化していく必要があります。


2 新たに対応が必要な課題

(1)都市再生と景観づくり

写真
都心部における国際ビジネスセンターの形成

 都市再生の進展に伴い、都心部や臨海部において大規模な開発が進み、市街地の景観は大きく変わりつつあります。
 国際競争力を備えた、魅力ある東京を実現するためには、都市再生を推進する中で、良好な景観を形成していくことが不可欠です。
 こうした動向を踏まえ、都心部の機能更新の機会を捉えて、美しい都市景観をつくり出していくことが重要です。


(2)観光まちづくりとの連携

 多摩、島しょ地域の自然、都心部における歴史的建造物や大名庭園注9、新しい都市づくりが進む臨海部など、東京には、観光資源となりうる景観が数多くあります。景観の持つ多様な魅力を広く発信し、国内外から多くの観光客を惹きつけることが大切です。
 こうしたことから今後は、観光まちづくりの視点を踏まえ、地域特性に応じた景観誘導に取り組む必要があります。

(3)屋外広告物規制との連携

写真
地域特性を活かした屋外広告物のイメージ
(柴又帝釈天周辺)

 屋外広告物は、街並みの重要な構成要素であり、景観に大きな影響を与えます。
 都は、平成17年3月に屋外広告物条例を改正し、それまでの都内一律の規制だけでなく、地域ごとのルールを屋外広告物の許可基準とできる仕組みを創設しました。これを活用し、街並みとの調和や地域特性に応じた屋外広告物を誘導していくことが望まれます。
 また、駐車場案内などの公共サインについても、観光まちづくりの視点や良好な景観形成を図る観点から、デザインの統一などについて検討していく必要があります。
 近年、広告技術の進歩や規制緩和の要請を背景に、新たな媒体を使用した屋外広告物が出てきています。良好な景観形成を図る観点から、その取扱い等について検討を行う必要があります。


(4)景観法注10の活用

 一昨年景観法が制定され、昨年6月から全面施行となりました。景観法制定以前に都などが自主条例として定めた景観条例は、景観の規制・誘導策に法的強制力がないという課題がありました。景観法は、こうした取組に法的根拠を与えるもので、自治体は法に基づく条例を制定することにより、建築行為等に対し一定の強制力を持った施策を行うことができます。
 また、景観法は、一つの行政区域において都道府県か区市町村のどちらか一方のみが景観行政団体注11となり、法に基づく施策を実施することとしています。
 このため、都と区市町村は、ともに施策を効果的に行えるよう、景観法の活用について協議・調整する必要があります。

 このような新たな課題や、社会経済情勢の変化に的確に対応し、東京全体として良好な景観形成を進めていくために、都は引き続き広域的な視点に立ち、東京における景観施策を牽引していくことが重要です。
 都が都市づくりで関与する計画や事業の多くは大規模で、景観に対する影響も広範囲に及びます。こうした計画等について、都市計画や建築行政の許認可と景観法に基づく制度を効果的に併用し、望ましい景観を誘導していくべきです。
 また、身近な地域の景観づくりは、区市町村による自主的、主体的な取組を尊重し、都はこれを支援することが望まれます。特に、区市町村が広域にわたる景観を施策対象とする場合には、関係自治体相互の取組に整合が図れるよう、都は区市町村に対する調整、支援を積極的に行う必要があります。


注4東京都景観条例参照。

注5他の法令等:下記については、別途手続きを規定しているため、届出制度の適用除外となっている(景観条例第23条)。
(自然公園法、東京都立自然公園条例、自然環境保全法、東京における自然の保護と回復に関する条例、都市緑地法、首都圏近郊緑地保全法、都市計画法(地区計画の区域)、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律、幹線道路の沿道の整備に関する法律、集落地域整備法、東京都風致地区条例)

注6公共事業の景観づくり指針参照。

注7景観上重要な歴史的建造物等:文化財など歴史的な価値のある建造物や庭園のうち、特に景観上重要なものを景観条例に基づき指定している。現在は、都内において29件が指定されている(都選定歴史的建造物は景観上重要なもののうち文化財等を除いて選定しているため、別途定めている)。

注8歴史的景観保全の指針参照。

注9大名庭園:江戸時代に諸大名の屋敷にあった庭のこと。小石川後楽園や六義園などがある。

注10 景観法:都市、農山漁村等における良好な景観の形成を図るため、良好な景観の形成に関する基本理念及び国等の責務を定めるとともに、景観計画の策定、景観計画区域、景観地区等における良好な景観の形成のための規制、景観整備機構による支援等所要の措置を講ずる我が国で初めての景観についての総合的な法律。
景観法の概要参照。

注11景観行政団体:景観法では、法に基づく景観行政を一元的に担う行政団体として「景観行政団体」を位置づけている。政令指定都市・中核市は自動的に、その他の市町村の区域については、都道府県が法施行と同時に景観行政団体となっている。一方で、景観法に基づいた景観行政を行うことを都道府県と協議し、同意を得た市町村については、その市町村の区域について、都道府県に代わり景観行政団体となることができる。

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