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都市づくり政策

東京都景観審議会【答申】〜東京における今後の景観施策のあり方について〜


第4章 施策の具体化に向けた体制づくり

1 都の役割と区市町村との連携

(1)景観づくりにおける都の役割

 都は、都及び区市町村が景観に配慮したまちづくりを進めていくための指針として、平成6年に景観マスタープランを公表しています。平成9年には地方自治法に基づく景観条例を制定し、2以上の区市町村にまたがり景観づくりの基軸となる地域を景観基本軸に指定するなど、東京を特徴づける地形や自然を生かした景観づくりを図ってきました。また、都心部の機能更新等を通じて、風格ある国際ビジネスセンターの形成など、広域的な景観づくりに取り組んできました。
 現在、区市町村において、景観条例を制定し、景観誘導を行っている自治体は8区・4市に留まっていますが、景観法の施行を機に、新たに景観行政に取り組む意向を示す自治体もみられます。
 これまで都は、区市町村が景観条例を検討する場合には、技術的な支援や景観基本軸における取組の継承などに努めてきました。今後とも区市町村による地域特性を生かした景観づくりに対し、広域的な施策との整合を図りつつ、支援していくことが望まれます。
 また、都自らは、一つの区市町村を超える景観形成とともに、都市計画などの許認可を通じて首都にふさわしい風格ある都市づくりの推進など、東京全体からみて広域調整が必要な課題への取組を強化すべきです。さらに、文化財庭園等の周辺の景観誘導や公共サインの統一などをモデル的に実施し、その実績・効果等を踏まえて、区市町村に同様の取組を促していくことが重要です。


 

(2)東京全体としての施策の整合性

 景観には、身近な地域から眺望など広域に及ぶものまで、様々な対象があります。東京は市街地が広範囲にわたっており、沿道の街並みなどは行政界を超えて連続しています。政治、経済、情報等の中心である首都として、一地域の景観が東京や日本を代表する景観とみられる場合もあります。このため、都市全体として良好な景観を形成していくためには、施策の対象範囲と目的等に応じて、広域的自治体である都と住民に身近な区市町村との間で適切な役割分担が必要です。
 また、景観形成と密接な関係にある都市計画や建築行政の許認可などの事務について、区部では、計画規模等に応じ都・区双方が役割分担しています。一方、多摩部では、一部の自治体を除き、都が建築行政や開発許可行政を担っています。
 東京における景観づくりの推進に当たっては、こうした大都市の実態、景観に関連する制度の役割分担などを踏まえた上で、施策の整合性を確保するため、区市町村と連携・協力しつつ施策を効果的に実施していく必要があります。


(3)景観法の活用に関する区市町村との調整

 現在、都が都内全域について景観法に基づく景観行政団体になっていますが、区市町村は都と協議し、同意を得ることにより、自らの行政区域について、景観行政団体になることができます。
 区市町村が、景観行政団体となる意向を示した場合は、例えば、

  • 東京全体の都市づくり政策、景観形成の方向との整合性の確保
  • これまでの都の景観施策、今後の取組との連携・協力
  • 都市計画法、建築基準法などに基づく許認可との連携・協力
  • 都の実施する公共事業に合わせた地域の景観づくりの取組

 などについて、区市町村と十分調整を図ることが必要です。
 また、各区市町村が景観行政団体として景観条例を制定する場合には、都及び関係自治体との連携・協力義務、自治体の行政区域を超えた、より広域的な範囲からの眺望の配慮などについて、条例の共通理念として条文化することが望まれます。
 さらに、区市町村が景観計画を策定する場合に、都は区市町村との間で、その独自性・主体性を尊重しつつ、協議・調整を行うことのできる仕組みを検討すべきです。


(4)景観条例の改正

 東京は、民間の建設活動が広範囲にわたり活発に見られ、市街地の景観が常にダイナミックに変化しています。都がこれまで景観基本軸において実施してきた届出制度のように、一定の基準を設定し、景観を誘導するだけでは必ずしも十分とは言えません。都市づくりの機運と連動させながら、地域特性を踏まえた景観形成を柔軟に図っていくことが重要です。
 このため、都は、これまで実施してきた届出制度のあり方について見直し、景観法に基づく景観計画制度を活用するなど、指導・勧告に実効性を持たせることが重要です。また、都市計画や建築行政の許認可と景観誘導の仕組みとの連動や、観光まちづくりや自然保護など都市づくりに関連する他の施策と連携した施策など、景観法に基づかない都独自の取組についても実施すべきです。
 こうしたことから、景観法を活用した取組と、都独自の取組を一体的に運用できるよう、東京の都市づくり活動等の実態を踏まえ、現行の景観条例を改正すべきです。


2 地域の景観づくりに対する支援

(1)区市町村と連携した景観保全の強化

 都はこれまで、隅田川沿岸、国分寺崖線など、複数の区市町村にまたがる地域を景観基本軸に指定し、望ましい景観の誘導を重点的に行ってきました。
 今後、景観基本軸の区域などを対象に関係自治体と連絡調整の機会を設けるなど、一つの行政区域を超えて、広域的な観点から自治体間の施策の整合性を確保していくことが重要です。こうした取組を踏まえ、都は、区市町村に地区計画や景観地区の活用を促すなど、地域の意向を尊重しつつ、自然景観を生かした景観づくりについて、よりきめ細かな対応を行っていく必要があります。

(2)農のある風景の保全

 都市化の進展に伴い、東京に残されてきた農地は宅地化され、年々減少しています。市街地に存在する農地は、地域住民に快適な環境を提供し、うるおいや安らぎを与えるなど、地域の魅力を高める景観として見直されています。
 都は区市に対して、市街化区域内注22の農地で、良好な環境の確保に効果があるものを生産緑地地区注23として都市計画に定め、都市部に残る農のある風景を積極的に保全していくよう、働きかけていくべきです。
 また、広く都民の参加を得て、農のある風景の意義を啓発している民間団体についても、支援をしていくことが望まれます。

(3)富士山への眺望の保全

 都内には、「富士」の名のつく坂、町、通りが多いように、富士山は古くから人々に親しまれてきた東京の重要なランドマークです。しかし、高層ビルの出現などにより、富士山を眺望できるところは、徐々に限られてきています。
 都は、「都市景観マスタープラン」で示した富士山の眺望地点などを参考に、区市町村に対して、富士山を望める場所の保全や眺望を楽しめる場所の整備などを促し、日本の象徴である富士山の見える風景を、東京の景観の中に取り戻していくことが望まれます。
 なお、一つの区市町村を超えて広域的な調整が必要な事項については、都が主体となり、関係する区市町村と連携・協力を図っていくことが必要です。

(4)地域ルール等による屋外広告物の誘導

 平成17年10月に改正屋外広告物条例が施行され、地域ルールによる屋外広告物の誘導が可能となりました。
 例えば、同じ商業地域であっても、表参道と柴又(帝釈天)とでは街の表情が異なります。屋外広告物の誘導を通じて、こうした地域の個性をより効果的に発揮できるよう、都は、屋外広告物の事務を移譲している自治体に対し、地域ルールや地区計画の活用を働きかけることが重要です。また、今後とも、街並みデザイナーの派遣などにより、地域の取組を支援していくことが望まれます。

(5)建築協定と合わせた地区計画等の活用

 都内には、住宅地などの開発の際に、建築物や敷地について建築協定を結び、良好な景観を維持している地域が数多くあります。しかし、年月を経て、協定の有効期間が切れたり、相続時に協定が守られなくなるなど、協定だけでは良好な景観を維持できなくなる事例が見受けられます。区市町村は、新たな開発予定区域のみならず、現に建築協定が結ばれている区域も対象として、地区計画や景観地区などの都市計画を活用し、良好な景観形成を担保していく取組が望まれます。
 都は、こうした区市町村による取組に対し、技術的な助言や支援等を行っていく必要があります。


3 都庁内の推進体制

 この答申で提言した考え方に基づき、効果的に施策を実施していくためには、景観を担当する組織のみで対応するのではなく、景観形成と関連する業務を所管する部署と連携・協力していくことが重要です。例えば、大規模開発の調整、観光まちづくり、道路、港湾、公園、都営住宅などの公共・公益施設の計画・施工・管理、自然保護などを所管する部署と連絡・調整する場を活用することが望まれます。
 今後、建築行為等を対象とした事前届出制度について実効性の面から向上を図るとともに、都市づくりと連動した景観づくりを多面的に展開することにより、美しく、魅力とにぎわいのある国際都市東京を創造していくことが求められます。


注22市街化区域:都市計画法に基づく都市計画区域のうち、市街地として積極的に開発・整備する区域で、既に市街地を形成している区域及び概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図る区域をいう

注23 生産緑地地区:市街化区域内の農地について、その緑地機能を評価し、将来にわたる計画的なまちづくりを推進する観点から都市計画に定める地域地区

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