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都市づくり政策

東京都景観審議会【答申】〜東京における今後の景観施策のあり方について〜


第3章 今後の景観行政における政策課題と施策の方向性

2 今後の施策の方向性

(3)景観の骨格となる緑や水辺の保全・再生

●提言

 東京は市街地が広範囲に及ぶ一方で、多摩の丘陵地や崖線、区部を流れる大河川や運河網、東京湾や海に囲まれた島しょなど、豊かな自然地形を抱えています。これらは都市の輪郭を明瞭にし、東京の多様な景観の土台となっています。
 近年の開発やビルの高層化等は、東京の特徴ある自然地形を見えにくくしています。このため、臨海部や河川などの水辺、大規模公園などの緑地、島しょを対象に新たな施策を構築し、まちづくりや地域振興に合わせ、自然を生かした魅力や地域を特徴づける景観を創出していく必要があります。
 また、開発事業者等との協議により、景観への配慮を要請してきた従来の届出制度について実効性の面から再検討し、景観配慮に優れた開発行為等を誘導していくことが重要です。

二重丸(水辺空間を意識した景観誘導)

 隅田川や運河沿い、臨海副都心などの水辺は、開放的でダイナミックな眺望が得られる場所であり、魅力的な観光スポットも点在しています。また、水面にかかる様々な橋は、風格や魅力あるランドマークとして、水辺の景観にアクセントを与えています。
 一方で、臨海部における倉庫や工場などの跡地を中心に大規模な開発が進み、水辺の街並みは大きく変化しつつあります。
 こうした地域においては、大規模な開発と連動して、親水空間の積極的な整備や、海上や水際からの眺めに配慮した都市づくりを進めていくことが必要です。
 また、東京港の港口に位置する中央防波堤内外埋立地については、首都の玄関口として、船舶・航空機からの視点や倉庫など建築物の色彩に配慮した景観づくりが望まれます。

(具体的な取組例5)

二重丸(小笠原の地域振興と自然景観の保全)

 小笠原諸島は、ダイナミックな海洋景観と世界的に貴重な自然資源など、世界にとってかけがえのない環境が残されている地域です。世界自然遺産登録を見据え、地域振興や観光まちづくり等と連携しながら、自然景観の保全を中心とした景観施策に取り組む必要があります。また、集落と自然を保護する区域との調和、海上から見た景観等を考慮し、景観法に基づく景観計画(注15)の活用を視野に入れた検討も必要です。

(具体的な取組例6)

(水と緑のネットワーク形成)

 都心には皇居や大名屋敷が姿を変えた大規模公園、周辺区には戦前のグリーンベルト構想(注16)の名残を留める大規模緑地があります。一方、多摩郊外から奥多摩にかけては、特徴的な地形や水系と重なるように緑のかたまりが存在しています。
 都は、これらをつなぐ河川・幹線道路等における緑化の推進や、これらの公共施設周辺の民有地における緑の保全・創出の促進など、地域特性を踏まえた景観づくりを進め、大きな水と緑のネットワーク形成を図っていく必要があります。
 例えば、広い歩道・緑地帯を設置する多摩の南北道路では、道路整備とともに、周辺のまちづくりや公園・緑地行政と連携した景観づくり(注17)が望まれます。
 また、大規模な民間開発で整備される公開空地を緑地の一環と捉え、ネットワークの形成に寄与するよう計画的な誘導が必要です。

【ネットワーク形成イメージ(神田川水系)】

イメージ拡大図イメージ図

<ネットワークを形成する公共施設の例示>

  • 河川と連携した整備を行っていく和田堀公園、東伏見公園など
  • 自然豊かな丘陵地を保全・整備する小山田緑地、野山北・六道山公園など
  • 地域と連携し、水辺とふれあえる空間の確保や親水性の向上を図っていく隅田川など
  • 沿川のまちづくりと連携し、歩行空間や親水拠点、緑の保全・回復を進める神田川など
  • 広幅員の道路整備とともに緑豊かな環境施設帯を整備する調布・保谷線など

(景観基本軸に基づく景観誘導の強化)

 景観基本軸内で届出が必要とされる計画であっても、風致地区、自然保護、地区計画など景観に関連する他の条例により許可や届出が義務づけられる場合には、景観条例に基づく届出を除外してきました。しかし、他の制度に計画内容の審査を委ねる場合においても、景観基本軸の景観づくりの考え方が適切に反映され、良好な景観を誘導していくことが重要です。
 このため、他の制度を所管する部署においても、事業者と景観に関する協議が効果的に行えるよう、都は、これまでの定性的・網羅的な景観への配慮基準を地域特性に応じて客観化・重点化していくことが必要です。
 また、事業者との協議を通じて、景観配慮に優れた建築計画等が広く普及するよう、都はその方策について検討していくことが望まれます。

【景観誘導のイメージ(玉川上水景観基本軸の例)】

玉川上水周辺写真
玉川上水周辺の現況

矢印

誘導イメージ図

(具体的な区域が指定されていない景観基本軸を対象とした施策の検討)

 これまでに具体的な区域の指定に至っていない景観基本軸については、施策内容が検討されてきた都心東西軸を含め、景観マスタープランで示された考え方をできるだけ具体化していくことが必要です。
 そのためには、未指定の景観基本軸を対象とした景観づくりに、区市町村が積極的に取り組めるよう、都は広域的な視点から指導や助言、関係自治体間の調整を図るべきです。
 都は、自ら許認可を行う民間開発事業の適切な誘導や、公共事業との効果的な連携を図ることにより、景観マスタープランに沿った取組を行う必要があります。

【施策の具体的な取組例5】
海上の眺望地点を中心とした景観の形成

(1)ねらい
 臨海地域において、観光スポットなどを眺望地点と定め、都民はもとより、国内外からの来訪者にとっても、魅力的な眺望景観を保全・創出する。

(2)具体的取組

  • 河川や運河沿いのテラスや橋梁、海上公園や水上バスルートなど、誰もが気軽に訪れ、その眺望を容易、かつ効果的に得られる地域を対象に、都民等の意見を踏まえて眺望地点を設定
  • 地元の景観づくりに対する取組と連携し、色彩ガイドラインの策定や建築物などの配置、屋外広告物の表示などに対する配慮基準を定め、眺望地点と併せて公表
  • 大規模な開発については、都市開発諸制度の適用に合わせて眺望地点からの景観配慮を要請
  • 立地特性や規模等に応じて、景観の専門家など第三者の意見を参考にするなど、開発計画のデザイン、色彩などを誘導

【眺望地点のイメージ】

眺望地点のイメージ地図

庭園とその背景を含めた眺望を保全
庭園写真

  • 庭園内の緑に配慮した色彩
  • 庭園に向いた屋上広告の規制 など
ランドマークを中心とした眺望を保全 水辺を生かした開発の誘導

勝鬨橋写真
勝鬨橋(かちどきばし)

レインボーブリッジ写真
レインボーブリッジ

ドック跡地写真
造船所のドック跡地を活用した開発
(整備イメージ)

  • ランドマークを前景とする魅力的な夜景への配慮
  • ランドマークを際立たせるような建築物の色彩・デザイン など

【施策の具体的な取組例6】
小笠原の地域振興と自然景観の保全

(1)ねらい
 亜熱帯海洋島・小笠原において、都民の共有財産であり世界的にも希少で豊かな自然環境と調和した魅力ある景観の創出に、村や村民とともに取り組み、併せて、観光を中心とした地域振興を図る。

(2)具体的取組

  • 生活・観光拠点の父島・母島において、世界自然遺産登録を見据え、都と村による検討・調整の場を通して地域づくりの基本的方向を検討
  • こうした場を活用し、自然環境の保全と地域振興が両立できる地域づくりに向け取り組む
  • 島の玄関口となる港周辺や集落内の沿道、観光スポットなどを対象に秩序ある土地利用を誘導し、公共施設も含め、自然や周辺環境と調和した景観を形成
  • 特に、街づくりの機運が芽生えている父島二見港周辺では、公共施設のデザイン、沿道建築物の高さ、色彩、デザイン、屋外広告物、接道緑化等についてルールを検討し、自然や街並みと調和した景観を誘導
【景観誘導のイメージ】
誘導前のイメージ   誘導後のイメージ
奥村地区写真1
(奥村地区)
奥村地区写真2
海から見た景観に配慮
西町・東町地区写真1
(西町・東町地区)
西町・東町地区写真2
小笠原らしい街並みを創出

注15 景観計画:景観行政団体が、良好な景観の形成を図るため、その区域、良好な景観の形成に関する基本的な方針、行為の制限に関する事項等を定める計画。景観行政団体が、景観行政を進める際に、その基本的な計画となるもの。
景観法の概要:参照

注16グリーンベルト構想:昭和14年に策定された計画で、東京市域の外周沿いに延長約72km、巾1〜2kmの環状の緑地帯と、さらにこれより都市部へ楔状に介入する放射状緑地を設定した。武蔵野の趣のある山林・原野・水辺・農地・集落などの中に、公園・運動場・農園・農林業試験場・動植物園・墓地・遊園地など各種の施設を集中し、あるいは一般農地や山林などを保存して永久に都市化を防ごうとした。

注17周辺のまちづくりや公園・緑地行政と連携した景観づくり:都市施設(道路・公園など)の整備等を契機として、これを骨格とし、その周辺の街並みを一体として捉えることにより形成される、みどり豊かな広がりと厚みを持った良好な都市空間の概念として環境軸がある。【みどりの新戦略ガイドライン(2006.1)

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