●提言
東京は市街地が広範囲に及ぶ一方で、多摩の丘陵地や崖線、区部を流れる大河川や運河網、東京湾や海に囲まれた島しょなど、豊かな自然地形を抱えています。これらは都市の輪郭を明瞭にし、東京の多様な景観の土台となっています。
近年の開発やビルの高層化等は、東京の特徴ある自然地形を見えにくくしています。このため、臨海部や河川などの水辺、大規模公園などの緑地、島しょを対象に新たな施策を構築し、まちづくりや地域振興に合わせ、自然を生かした魅力や地域を特徴づける景観を創出していく必要があります。
また、開発事業者等との協議により、景観への配慮を要請してきた従来の届出制度について実効性の面から再検討し、景観配慮に優れた開発行為等を誘導していくことが重要です。
(水辺空間を意識した景観誘導)
隅田川や運河沿い、臨海副都心などの水辺は、開放的でダイナミックな眺望が得られる場所であり、魅力的な観光スポットも点在しています。また、水面にかかる様々な橋は、風格や魅力あるランドマークとして、水辺の景観にアクセントを与えています。
一方で、臨海部における倉庫や工場などの跡地を中心に大規模な開発が進み、水辺の街並みは大きく変化しつつあります。
こうした地域においては、大規模な開発と連動して、親水空間の積極的な整備や、海上や水際からの眺めに配慮した都市づくりを進めていくことが必要です。
また、東京港の港口に位置する中央防波堤内外埋立地については、首都の玄関口として、船舶・航空機からの視点や倉庫など建築物の色彩に配慮した景観づくりが望まれます。
(小笠原の地域振興と自然景観の保全)
小笠原諸島は、ダイナミックな海洋景観と世界的に貴重な自然資源など、世界にとってかけがえのない環境が残されている地域です。世界自然遺産登録を見据え、地域振興や観光まちづくり等と連携しながら、自然景観の保全を中心とした景観施策に取り組む必要があります。また、集落と自然を保護する区域との調和、海上から見た景観等を考慮し、景観法に基づく景観計画(注15)の活用を視野に入れた検討も必要です。
(水と緑のネットワーク形成)
都心には皇居や大名屋敷が姿を変えた大規模公園、周辺区には戦前のグリーンベルト構想(注16)の名残を留める大規模緑地があります。一方、多摩郊外から奥多摩にかけては、特徴的な地形や水系と重なるように緑のかたまりが存在しています。
都は、これらをつなぐ河川・幹線道路等における緑化の推進や、これらの公共施設周辺の民有地における緑の保全・創出の促進など、地域特性を踏まえた景観づくりを進め、大きな水と緑のネットワーク形成を図っていく必要があります。
例えば、広い歩道・緑地帯を設置する多摩の南北道路では、道路整備とともに、周辺のまちづくりや公園・緑地行政と連携した景観づくり(注17)が望まれます。
また、大規模な民間開発で整備される公開空地を緑地の一環と捉え、ネットワークの形成に寄与するよう計画的な誘導が必要です。
【ネットワーク形成イメージ(神田川水系)】
<ネットワークを形成する公共施設の例示>
(景観基本軸に基づく景観誘導の強化)
景観基本軸内で届出が必要とされる計画であっても、風致地区、自然保護、地区計画など景観に関連する他の条例により許可や届出が義務づけられる場合には、景観条例に基づく届出を除外してきました。しかし、他の制度に計画内容の審査を委ねる場合においても、景観基本軸の景観づくりの考え方が適切に反映され、良好な景観を誘導していくことが重要です。
このため、他の制度を所管する部署においても、事業者と景観に関する協議が効果的に行えるよう、都は、これまでの定性的・網羅的な景観への配慮基準を地域特性に応じて客観化・重点化していくことが必要です。
また、事業者との協議を通じて、景観配慮に優れた建築計画等が広く普及するよう、都はその方策について検討していくことが望まれます。
【景観誘導のイメージ(玉川上水景観基本軸の例)】
玉川上水周辺の現況
(具体的な区域が指定されていない景観基本軸を対象とした施策の検討)
これまでに具体的な区域の指定に至っていない景観基本軸については、施策内容が検討されてきた都心東西軸を含め、景観マスタープランで示された考え方をできるだけ具体化していくことが必要です。
そのためには、未指定の景観基本軸を対象とした景観づくりに、区市町村が積極的に取り組めるよう、都は広域的な視点から指導や助言、関係自治体間の調整を図るべきです。
都は、自ら許認可を行う民間開発事業の適切な誘導や、公共事業との効果的な連携を図ることにより、景観マスタープランに沿った取組を行う必要があります。
【施策の具体的な取組例5】
海上の眺望地点を中心とした景観の形成
(1)ねらい
臨海地域において、観光スポットなどを眺望地点と定め、都民はもとより、国内外からの来訪者にとっても、魅力的な眺望景観を保全・創出する。
(2)具体的取組
【眺望地点のイメージ】
庭園とその背景を含めた眺望を保全
ランドマークを中心とした眺望を保全 | 水辺を生かした開発の誘導 | |
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【施策の具体的な取組例6】
小笠原の地域振興と自然景観の保全
(1)ねらい
亜熱帯海洋島・小笠原において、都民の共有財産であり世界的にも希少で豊かな自然環境と調和した魅力ある景観の創出に、村や村民とともに取り組み、併せて、観光を中心とした地域振興を図る。
(2)具体的取組
誘導前のイメージ | 誘導後のイメージ | |
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(奥村地区) |
海から見た景観に配慮 |
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(西町・東町地区) |
小笠原らしい街並みを創出 |
注15 景観計画:景観行政団体が、良好な景観の形成を図るため、その区域、良好な景観の形成に関する基本的な方針、行為の制限に関する事項等を定める計画。景観行政団体が、景観行政を進める際に、その基本的な計画となるもの。
景観法の概要:参照
注16グリーンベルト構想:昭和14年に策定された計画で、東京市域の外周沿いに延長約72km、巾1〜2kmの環状の緑地帯と、さらにこれより都市部へ楔状に介入する放射状緑地を設定した。武蔵野の趣のある山林・原野・水辺・農地・集落などの中に、公園・運動場・農園・農林業試験場・動植物園・墓地・遊園地など各種の施設を集中し、あるいは一般農地や山林などを保存して永久に都市化を防ごうとした。
注17周辺のまちづくりや公園・緑地行政と連携した景観づくり:都市施設(道路・公園など)の整備等を契機として、これを骨格とし、その周辺の街並みを一体として捉えることにより形成される、みどり豊かな広がりと厚みを持った良好な都市空間の概念として環境軸がある。【みどりの新戦略ガイドライン(2006.1)】