●提言
東京は、江戸開府以来約400年にわたって発展・成長を続けてきた歴史的背景を持っています。大名屋敷跡を引き継ぐ大規模公園・緑地や近代化の過程で築かれ現存する歴史的建造物は、都市の記憶を次世代に伝える重要な手掛かりです。
しかし、ここ十数年の間、大規模公園等の周辺環境は大きく変わり、近代洋風建築などが急激に減少するなど、楽観を許さない状況が続いています。
都は、都民、企業、NPO、区市町村など多様な主体と連携し、歴史的・文化的遺産の保全策を強化するとともに、それらを復元し、観光資源としての活用を図るなど、独自性のある都市文化を創造・発信していくことが重要です。
(都市計画制度等を活用した近代洋風建築の保存・復元)
東京の近代洋風建築は、明治から昭和初期にかけて我が国の近代化の中心を担ってきた都心部に数多く建設されました。このため、都心部の機能更新等に伴い解体されてしまったものも少なくなくありません。
今後は、都市計画制度等を柔軟に活用し、大規模な都市整備を進める中で、現存する近代洋風建築などの保存をより積極的に図る必要があります。
また、失われた建造物を復元する取組についても評価し、都市づくりや観光施策に生かせるよう、民間開発を誘導していくことも重要です。
(文化財庭園等の周辺の景観誘導)
東京には、皇居周辺の大規模な緑地や、江戸時代を中心に作庭された、我が国を代表する大名庭園があります。これらの周辺では、近年、庭園への眺望を売り物とする高層マンションや業務ビルが増加しています。その中には、建物の色彩や屋上広告物の表示などが、庭園内からの眺めや皇居周辺の雰囲気とそぐわない例もみられます。
こうした庭園等の周辺における建築行為等に対し、庭園を鑑賞する上で重要な眺望地点からの見え方について配慮を求めることが必要です。景観条例や屋外広告物条例を活用し、庭園内から見てその周辺を含めた景観を将来にわたって保全していくことが望まれます。
(都選定歴史的建造物の保存支援の強化)
歴史的な建造物の中には、国の重要文化財のような高い学術的価値を伴わない場合であっても、永く都民に親しまれ、貴重な景観資源となっているものがあります。都は、これらの建造物を独自に選定し、保存を図っています。
公益法人が所有し、教育などの公益目的のために使用する一定の建物や、公共機関が所有する建物には、固定資産税等の軽減措置が講じられています。しかし、個人や民間企業等の場合には同様の措置がないため、所有者は歴史的建造物の維持管理費等に大きな負担を感じています。
現在、都は、選定した歴史的建造物に対し、外観を保存するための工事費の助成制度など保存を支援する施策を行い、一定の成果をあげています。今後は、こうした取組のほか、都民共有の歴史的遺産の保存を支援する仕組みとして、税制面も含め幅広く検討することが望まれます。
【都選定歴史的建造物の所有者の状況】
(歴史的な建造物等に関する普及啓発と利活用の促進)
名建築や歴史的な建造物等が、老朽化に伴う安全性や機能性の低下、敷地を含めた資産の有効活用の必要性などから取り壊されてしまった例が少なくありません。都は、都民の保存建造物に対する理解を深めるため、観光施策等と連携を図りながら、建造物の公開などを通じた普及啓発に努める必要があります。
また、都自らが所有・管理するものを含め、都が、歴史的な建造物の所有者と事業などの利活用を希望する人を仲介することも重要です。建造物を有効に活用しながら保存を図っていく手法の検討が望まれます。
【利活用のためのコーディネートのイメージ】
【施策の具体的な取組例3】
都市計画制度等を活用した近代洋風建築の保存・復元
(1)ねらい
日本の近代化のシンボルであった近代洋風建築の保存等を図るため、都市計画制度等との連携による保存手法の拡大を図る。
(2)具体的取組
全体保存とともに部分保存も対象
【都市計画制度等を活用した保存の事例】
保存とともに復元も誘導
【復元の対象として検討】
一丁倫敦と称された赤煉瓦建築物の建ち並ぶ通りの一角(昭和43年に解体) |
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【施策の具体的な取組例4】
文化財庭園等の周辺の景観誘導
(1)ねらい
旧浜離宮庭園、清澄庭園などの文化財庭園や新宿御苑などを対象とし、国際的な観光資源としてふさわしい庭園景観の保全を図り、江戸文化を次世代に継承する。
(2)具体的取組
【文化財庭園等の例示 】
旧浜離宮庭園 (特別名勝・特別史跡) |
清澄庭園 (東京都指定名勝) |
新宿御苑 |
【景観誘導のイメージ】